
スーザン・ジョージ : ベルギー下院の参考人として
Expose de Madame Susan George
主題に入る前に、多少、歴史を振返ってみたい。100年前の私たちの国の衛生や保健また住宅事情等は、今日私たちが南の国々で目にする事情と変わりがなかった。児童の死亡率は高かったし、平均寿命にしてもとても短く、現在の先進国とは大違いであった。
この点について、19世紀のベルギーの科学者(天文及び統計)アドルフ・ケトレAdolphe Queteletは事情を良く知っていて、栄養問題について多くの調査をした。当然ながら、当時は産業資本主義の勃興期で、工場労働者は生理的必要を満たすほどにも給与を受けていなかった。潜在的殺人者のように、他人の命を危険に晒すことなくしては、それ以上落ちることのないほどに低く押さえられていた。
また初期社会学者ともいうべきヤコブ・リイスによってなされた19世紀末のニュー・ヨークの研究もある。リイスはNY市の貧民窟について『How the other half lives ?』という本を書いている。即ち『後の半分はどう生活しているのか』。敬愛するリイスに倣って、私は自分の処女作に『後の半分はどう死ぬのか』とタイトルをつけた。リイスは栄養失調のNY、劣悪な住宅のNY等を描き出した。こうした状態はまさに私が南の国々、当時は第三世界と言われていた国々について私が書きたかったことである。
もし今日、ヨーロッパがその市民たちに、未だ不平等が存在するけれども、ともかく良好な生活条件を保証しているとするなら、それは100年来、改革主義者たちが租税原理を導入して富の再分配をするために闘ってきたからである。彼らは、租税が全ての市民社会にあって必要なものであり、給与と同時に資本から徴収されたこの税収は、「公共」のサーヴィスとして再配分されねばならないと認識した。公共サーヴィスとは、教育や保健であり、いつ職場を失うかもしれないという労働者の不安を和らげ、親の死のために途方にくれる子どもたちに手を差延べるものである。
今日、わたしたちは同じような状況を知っている、しかも世界的な規模での似たような状況を知っているのである。南の国々は、無残な生活条件以外に投機問題に耐え忍ばねばならない。彼らの弱い通貨はしばしば投機対象として攻撃され、余儀なくされた平価切下げは悲劇的な結果を生んでいる。
韓国は、資本逃避を防ぐために、かってないほど高く金利を上げなければならなかった。外国資本を国にとどまらせようと金利を20%から22%まで上昇させた。船舶は港外に立ち往生し、貨物は支払いが済むまで陸揚げされなかった。さらに、企業家は銀行に負債を返済できなくなり、企業は倒産に追いこまれた。
同様な状況に1995年、メキシコがみまわれた。2万8000の中小企業が同じような原因、即ち手形がおちなかったり、大企業が事業を縮小したりして倒産した。100万人が失業した。そうしてどうなったか。メキシコは現在半ば先進国と考えられている。確かにメキシコ社会の半分の生活程度はかなり高い。ところが、58%が貧困層であり、平均的メキシコ人の生活レベルは1960年レベルなのである。
インドネシアを危機が襲ったとき、3万の銀行従業員が1週間のうちに解雇された。
結果として多くのアジアの人々が、特にタイの人たちが「IMF自殺」とよばれる死を選んだ。社会的保護が全くなく、どこに新たに就職する宛てもない人々が、恥を偲んだり、飢えの恐怖を耐えるよりも自殺したり一家心中を選んだ。
これらの金融危機は、這い出そうとしている国々、中程度に発展した国々を見舞うのだ。
トービン税には二つの目標がある。ひとつは投機によって引起された危機を食い止めることである。今一つは、冷戦終結以来示されてきた無関心の故に、まさに世界地図から消されようとしている国々が負っている赤貧に対して闘おうとすることでる。こうした国々にアメリカも、特にアメリカなのだが、その他の経済力のある国々も関心を払わない。
トービン=スパーン税には上記の二つの客観的目標がある。投機的ではない静かな取引の場合には、極めて低い0.01%という税率が適用される。1987年の証券危機以来、実は、ウォール・ストリートが採用しているあるメカニスムが存在する。それは、重大な投機の動きが見られると自動的に発動するメカニスムで、資本逃避を防ぐために20%まで至る禁止的税率を導入したのである。
1992年にユーロが導入される以前、フランス銀行は、フランス・フランが投機対象で攻撃されたとき、フランス・フランを守るために、なんと一週間でドルの外貨準備金の全てを取り崩してしまった。ジョージ・ソロス氏はポンド投機で10億ドル儲けたと新聞の一面記事に書かれた。こうしたことが、貧しい国々の通貨で起きたらどうなったことか考えてみて欲しい。
この税収を開発援助に廻そういう目標は、現在留まることを知らないほど減らされていく援助額、500億ドルだが、この援助額のことを考えれば充分過ぎるくらい正当化できる。
援助額はアメリカの場合、GNPの0.10%ほどだが、OECDの平均は約0.22%である。国連は35年来それを先進国の年度予算の0.7%まであげるように要請してきたが無駄であった。この国連の目標値は、幾つかの北欧諸国とオランダ位が達成しただけで、これまで実現されて来なかった。国際的レベルで新しい原資を見つけなければならないことは明白である。その点、トービン=スパーン税は理想的解決である。この税は、そのきわめて低い税率の故に、実質的に実態経済を犠牲にすることはないからである。
金融市場の実質的取引は全取引の2ないし4%であろうから、毎日の総額が1兆5000億ドルに登る市場規模からみればとるにたらない数字である。
個人的に私は、この税を「民主的条件性」と結びつけることを提案する。基金の運営を国連に任せるのである。この原資を使うために、受益国が構成員として地理的配置を考慮したひとつの評議会をつくることを受け入れねばならない。この評議会が全ての実質的勢力、即ち、女性、学生、企業家、勤労者、農民等を代表するだろう。この評議会が、政府と協力して、原資の割当に関して何を優先するかを決めるのが良いと思う。
この方法を「参加型予算」という。これは多少違うやり方であるが、ブラジルのポルト・アレグレ市およびブラジルのその他80都市で行われている。代表が選挙された評議会が優先するプロジェクトを決める。結果として、汚職や無駄遣いが大幅に減った。それは、市民が市の収入を使うということを意識しているから、予算をつぶさに見守るからである。
この方法はまた南の国々が市民の真の代表性および民主主義を推進するためにも役立つであろう。
それは南の国々にIMFがしたように条件を押し付けることでは決してない。しかし、住民の民主主義的表現を保証することである。
私は、貧しい国々の開発を確保するために税の導入を強調する。もしそうしないとするならば、「ブーメラン」効果でもって北が来るべき結果を甘受しなければならないだろう。2020年には、欧米の人口は世界の10ないし12%を構成するにすぎない。欧米人がなお象牙の塔にこもって生きられるとは考えられない。環境破壊に直面しなければならないだろう。何故なら貧しい南の住民は、他に資源がないのだから森を伐採し土地を疲弊させ水を汚染する以外ないだろう。治療の移民を防ぐ手立てはない。人類には貧困を荒廃を逃れる他の選択をもたないだろう。ハイチ紛争は人類を待ちうける予兆である。伝染病が、予防衛生の不備のために蔓延するであろう。こうした不安定がテロへと向かわせる。
トービン税は寛大なアイデアだがユートピア的だといわれる。人間性とは寛大さを示すことこそが肝心なのだ。第二次世界大戦後に米国が実施したマーシャル・プランを想起して欲しい。このときアメリカはGNPの約3%をヨーロッパ再建のために当てた。確かに寛大な行為といえよう。しかし、それは同時にアメリカの経済拡大を有利にするために貿易相手を必要としたとも読めるのである。
私たちは今日全く同じ状況にある。貧困、不平等、不正義は金持ちをも貧しくさせるのである。
今日市民はその代表者たちに自国を統治することを望んでいる。しかし、また世界的レベルで熟考することも望んでいるのである。グローバリゼイションは必然である。しかし、そのグローバリゼイションの性格は変えることができる。金融取引税に技術的問題はない。その適用を拒否する唯一の理由は政治である。アメリカもこの国際的課税提案に最後には参加するだろう。だが、ヨーロッパよ、ベルギーよ、パイオニアたれ。
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