2015年03月10日

気候変動 - 昨年12月のCOP20(ペルー・リマ)についての論評(2)

米中合意がリマ会合(COP20)を座礁させた

ワルデン・ベロ


テルスール英語版2014年12月29日付け

How the US-China Deal Subverted the Lima Climate Talks
By Walden Bello
Source: teleSUR English

国連気候変動枠組み条約第20回締約国会合(COP 20)が気候破滅に向かう勢いを反転するような結果をもたらすという希望は、各国の代表団がリマに集まる3週間前に発表された合意、つまり米中気候合意によって打ち砕かれてしまった。

画期的な合意?

温室効果ガスの累積に最も大きく寄与してきた国と、現在の炭素排出量が世界で最大の国の間の、9カ月間にわたる秘密会談の結果であると言われている合意は、各方面から「画期的」と称賛されている。

徹底的な気候変動懐疑論者である米国の共和党は、予想されていた通り、この合意が米国の雇用を犠牲にし、中国に一方的に有利であると非難した。しかし、この合意は古くからの環境オブザーバーたちからも相当な批判を受けている。

困惑を招いた主要な項目は、中国の排出量が減りはじめるのが2030年以降となるという合意内容である。米国の約束について言えば、排出量を2005年と比較して26-28%減らすというものであり、それ自体は重要だが、21世紀末までに2℃以上の気温上昇へと向かっている軌道を修正するためには十分でない。米国の削減量が実質的に効果を示すには、基準を世界的に合意されている基準である1990年レベルに置かなければならない。

さらに、この合意が法的強制力を持っていないことも批判されている。これは決定的に重要なことである。なぜなら、単なる行政的措置では米国の交渉代表が約束した削減を実現するために十分でなく、共和党が支配する新しい議会が民主党の大統領に、中国との約束を守るために必要な権限を与えるような法律を制定するとは考えられないからである。

リマ会合に向けたオバマと習のメッセージ

しかし、これがこの合意が12月の最初の2週間にリマに集まった190カ国以上の交渉代表に伝えたもっとも困惑させるメッセージだった。

基本的に、オバマと習近平が交渉代表たちに告げたのは以下のことだった。「われわれはわれわれの間で合意したことを多国間のプロセスに従属させるつもりはない。また、われわれが示す排出量削減量は、何をしなければならないかについての客観的な評価によって決定され、公平と『共通だが差異のある責任』の原則によって導かれるのではなく、われわれが議題に上らせると決定したことがらによって決定される。さらに、約束の順守は自主的(任意)であり、法律的な強制力を持つ義務的なものではない」。

米中合意はもちろん、リマでの交渉の結果に影響を及ぼした要素の1つにすぎない。しかし、それは決定的な要素だった。その理由の1つとして、この合意が義務性のない排出削減目標を設定する一方的で不透明なプロセスの先例となったことにより、2015年12月のパリでのCOP会合で、排出削減義務をベースとした、より厳格な気候変動抑止の体制を確立するという希望が打ち砕かれたということがある。さらに、先進国側の非妥協的姿勢を前にして、米中の合意は発展途上国に、金持ちの先進国こそが「共通だが差異のある責任」の原則に従って排出量削減の負担を負うべきであるという確固とした立場から名誉ある撤退を行うための言い訳を提供した。この議論でのデッドロックを打ち破った文言は、この原則を「共通だが差異のある責任と、各国の異なる状況に照らしたそれぞれの能力」という文言で置き換えた米中合意の引き写しだった。金持ちの先進国(および新興経済大国)にとって、このような表現で先進国と途上国の間の区別をぼかすことは大きな勝利だった。なぜなら、それは大部分が自分たちの生産と消費によって蓄積されてきた温室効果ガスの扱いが、すべての国の責任になったことを意味するからである。先進国の好意的な反応は理解できる。なぜなら、「みんなの責任だ」と言うことは「誰の責任でもない」ことを意味するからである。

中国が利己主義的な動機によって「共通だが差異のある責任」の原則の再定義を推進したことによって、多くの発展途上国は「気候に関する行動のためのリマ宣言」に署名する以外の選択肢がない状況に置かれた。ある交渉代表がこれを「中国の気候問題での“旋回”(ピボット)」と呼んだが、そのような旋回の結果多くの国が絶望的な状況に取り残されたと感じても不思議ではない。

気候変動問題に取り組んできたジュビリーサウスのリディ・ナクピルによると、リマ会合の結果は、「京都議定書からの撤退の新たな、そして致命的な一歩」だった – 京都議定書は先進国を義務的な排出量削減で拘束してきた。ナクピルや他の気候変動問題の活動家たちはリマ宣言が、2015年12月のパリ会合で開始されると想定されている新たな気候変動対策の体制の脆弱な土台を確立したと見ている。この新しい体制の中心となるのは、「目標とされる国ごとに決定される寄与("intended nationally-determined contributions")」(INDC)、あるいは義務的な約束の代わりに各国が実施する自主的な排出削減の目標である。

リマ宣言の欠陥

リマ会合の結果についてのおそらく最も包括的な分析が「フォーカス・オン・ザ・グローバル・サウス」の代表のパブロ・ソロン(元ボリビア国連大使)によって提供されている。彼によると、リマ合意の主要な欠陥は下記の点にある。

*合意の序文では「損失と損害」について言及しているが、気候を汚染している諸国による排出で現在被害を被っている国や地域に対してどのような補償が支払われるのかについて、明確なことは何も言っていない。

*テキストは現在の生産と消費のパターンを変更する必要性について何も述べていない。「種々の提案はそれぞれの国で生み出される排出量を削減することに焦点を当てていて、消費される排出量については取り上げていない」と彼は指摘している。彼によると、先進国で消費される製品やサービスに関連する二酸化炭素排出の3分の1が自国の外で排出されており、その大半は途上国で排出されている。「先進国が自国の外で二酸化炭素を排出する製品を消費するのを減らそうとしない限り、先進国の排出を減らすだけでは不十分である」。

*テキストは化石燃料の既知の埋蔵量の75-80%を採掘しないでおく必要があることについて沈黙している。これは地球の温度上昇を1.5℃あるいは2℃以内に抑制できるように二酸化炭素排出量を削減しようとするなら不可欠の条件である。「実際、1892行にわたるテキストの中に、『化石燃料』について言及されているのは『化石燃料への補助』の段階的削減について述べている1カ所だけであり、ほかには『高炭素消費の投資の削減』についての一般的な言及があるだけである」と彼は指摘している。

*宣言は「南」の諸国の適応を支援するためとされるグリーン気候基金1000億ドルの調達方法を明確にするのを避けている。

彼は緩和あるいは排出削減に関連する記述に対して最も強く批判している。新しいシステムの柱となるのは「目標とされる国ごとに決定される寄与」(INDC)と呼ばれる排出削減に関する自主的な約束である。各国が自国のINDCを守ることを保証するための強力な順守メカニズムについて、いかなる提案もなされていないと彼は指摘する。「大きな汚染国が期限に従って排出を削減できず、気候変動の影響を受けやすい国に損害を及ぼした場合にどうするのかがテキストでは全く検討されていない。政府や企業に対して約束の履行を要求し、怠慢に対して制裁を課すメカニズムについて何も言及されていない。テキストで述べられているすべてのオプションは、検討または評価のプロセスのみを考慮している。強力な順守メカニズムを欠く気候に関する合意は政治的宣言に過ぎない」と彼は述べている。

ソロンの憂慮は発展途上国にとって非常に重要である。なぜなら、この数年間にカナダ、ロシア、ニュージーランドが京都議定書から離脱し、オーストラリアと日本は議定書の下での法的拘束力を持つ目標に到達できなかったからである。しかし、これらの諸国は制裁を課されていない。

しかし、ソロンにとって最も重大な問題は、「共通だが差異のある責任」の原則が、「共通だが差異のある責任と、各国の異なる状況に照らしたそれぞれの能力」に引き下げられたことである。これは米国の中国のそれぞれの交渉代表、トッド・スターンと解振华(Xie Zhen Hua)が連携して、米中合意におけるこの原則の再定義をCOP会合が採用するようにロビー活動を行った結果である。近年、多くの貧困国と市民社会団体は、歴史的に温室効果ガスの蓄積に最も寄与してきた先進諸国と、現在最大の排出国となりつつある新興大国が排出削減の負担を引き受ける主要な責任を負うべきであると主張してきた。新たに定式化された原則は、ソロンによると、「先進国と新興国の温室効果ガス排出の責任を希薄化する」。大きな敗者になるのは貧しい発展途上国であり、大きな勝者は中国と米国である。この両国は、ソロンによると、「彼らが作り出した気候のカオスに対する責任を消去する合意を取り付けた」。

ワシントン・北京気候枢軸

これまで米国と中国は互いに相手側の非妥協的な態度を、自国の炭素排出量削減を回避する口実として利用してきた。世界はこのゲームにうんざりするようになったので、両国は相互に対立しているという見せかけをやめて、協調姿勢を示すようになった。両国の気候に関する合意とリマ宣言 –両国がその作成に中心的な役割を演じた- によってこの2つの大国は世界の気候変動対策のパラメーターを設定した。これらのパラメーターは世界が4-6℃の気温上昇に向かうこと、そしてわれわれの世代が破滅させた世界の遺産を将来の世代に残すことを確実にするものにほかならない。

[筆者はフィリピン下院議員、長年にわたって環境問題に関わってきた]


タグ:気候変動 COP
posted by attaction at 13:23 | エコロジー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする