2013年01月24日

気候変動交渉は「空振り三振」だ:WSF2013を気候変動への分析と戦略の再考のためのスペースに

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2011年WSFダカールで発言するパブロ・ソロン

気候変動交渉は「空振り三振」だ
WSF2013を気候変動への分析と戦略の再考のためのスペースに


2012年12月
パブロ・ソロン
(フォーカス・オン・ザ・グローバル・サウス事務局長、元ボリビア国連大使・気候変動交渉代表)

[原文(英語): http://pablosolon.wordpress.com/2012/12/18/strike-four-for-climate-change/ ]

野球では、3ストライクでアウトになる。気候変動交渉で、私たちはすでに4ストライクだ。コペンハーゲン、カンクン、ダーバン、そして今回はドーハ。バットを4回振ったが、そのたびに前回よりもひどい空振りに終わっている。排出量削減目標は、2020年までに対1990年比で少なくとも40~50%だったはずだ。4回のCOPを経て、現在の目標値はわずか13~18%へと引き下げられている。私たちは今や、地球全体の気温が4~8℃上昇するという方向へ進み始めてしまっている。

一部の国連交渉担当者たちは「完全主義は善政の敵である」と言っている。それに対しては、こう答えよう。「家が全焼しようとしている時にできる最悪のことは、嘘をつくことである」。今は、何が起こっているのかを再考し、世界規模のカタストロフィ(大破局)を回避するための新たな戦略を模索する時である。

気候変動の証拠がない?

気候変動はもはや理論的な可能性という問題ではない。それは人々の生命や、自然や経済に明らかな影響を及ぼしている。

気候変動はすでに、毎年約40万人の死に関わっている。今月[2012年12月]、カタールのドーハでCOP18交渉が開催されている時期に、台風ボパがフィリピンを襲い、猛威をふるって700人以上の死者を出した。数十年に一度の強烈な台風がミンダナオ島を荒廃させ、70,000戸以上の家屋を損壊させ、現在30,000人以上が避難所生活を余儀なくされている。

気候変動の経済への影響も、今では明らかになっている。ハリケーン・サンディは米国に600億ドル以上の損害をもたらした。「気候脆弱性モニター」というタイトルの報告書によると、気候変動が世界にもたらしているコストは年に1.2兆ドル、つまり世界のGDPの1.6%である。さらに、2030年までにはこのコストは世界のGDPの3.2%まで上昇する可能性があり、一部の国ではそれがGDPの11%を占めると予想されている。

さまざまな事実によって、気候変動否定論者の国でさえ、人々の認識は変わり始めている。現在では米国人の5人中4人が、地球温暖化がが起こっていると考えるようになっている。しかし、あらゆる証拠と、認識のわずかな前進にもかかわらず、UNFCCC(国連気候変動枠組条約)の交渉は後退してきた。ドーハ会議は、京都議定書を強化して、より多くの国を参加させ、より強力なコンプライアンス(遵守)のメカニズムと、科学に基づいて設定されたグローバルな目標を組み込むのではなく、より軟弱な(参加国も減った)京都議定書の第2約束期間と、新しい合意の約束(その合意の発効は2020年)で終わった。

私たちの誤り

気候変動交渉に関わっている人々は通常 - 私も気候交渉担当者だったが - 国をベースとして考える。そのため、対立は先進国と発展途上国の間の対立となる。それは歴史的に排出してきた国と被害国の対立であるが、今では、一部の被害国も大規模な排出国になっているため、複雑さが増している。この状況は、一種の行き詰まりをもたらしている。つまり、富裕国は新興国が同様の排出量削減を行わない限り、さらなる排出量削減を拒否すると主張し、新興国は歴史的な責任を負うべき国が先導しない限り、自ら排出量削減に動くことは拒否すると主張している。

交渉の行き詰まりについてのこのような説明は、本当の原因を掘り下げていない。何が起こっているのかを理解するために、私たちはこのような国をベースにした論理 - 先進国、発展途上国、新興国、後発発展途上国 - を超えて、階級の観点から、全世界のエリートたちの経済的利益を問題にする必要がある。交渉の行き詰まりは米国と中国の間の対立によるのではなく、エネルギー関連の巨大プロジェクトから莫大な利益を得ている米国と中国のエリートたちの共通の利害の結果である。温室効果ガス排出量の大幅削減についての世界的な合意があるとすれば、彼らはどのぐらいの量の石油を埋蔵されたままにしておく必要があるだろうか? どのぐらいの数の石炭火力発電所を閉鎖しなければならないだろうか? いくつの巨大ダム建設を断念しなければならないだろうか? どのぐらいの数の汚染物質を含む商品の生産と販売を中止する必要があるだろうか? 一言でいえば、彼らの利益はどのぐらい減るのだろうか?

これらのエリートたちは政府をコントロールして、巨大エネルギー・プロジェクトを正当化するような経済成長曲線を投影させる。これらの経済的権力を握る勢力は、エネルギーの30%以上が送電中に失われても、プロジェクトが完成後に期待されていたエネルギーを生成しなくても、ダムがメガモール(巨大商業施設)に電気を供給するだけであっても、バイオ燃料が食糧生産を減少させても、また、排出量市場が森林にとって良いことなのかどうかについても全く気にしない。彼らが気にするのはビジネスを行うことだけである。

「発展の権利」と「競争力」は、エリートたちの利益への飽くなき渇望を隠蔽するために使われている。貧しい人々の名において、彼らは莫大な富を蓄えている。彼らは自分たちのプロジェクトを推進するために他国からの脅威を利用する一方で、「敵国」のエリートたちとビジネスを行っている。

エリートたちは二酸化炭素排出の連鎖のいたるところに関与している。化石燃料の抽出、巨大インフラ・プロジェクト、原子力のような危険なエネルギーの推進、REDDを通じた森林の金融資産化で、自然を破壊する消費財のマーケティング、そしてバイオ燃料やGMO、最近では合成生物学やジオエンジニアリングなどの虚偽の解決策の開発等である。

気候変動に対処するためには化石燃料の埋蔵量の3分の2以上は、地中に残しておかなければならない。そのことなしにいかなる真の解決策もありえない。これらの埋蔵資源を支配する民間多国籍企業と国家官僚は、金の卵を産むガチョウを失いたくない。採掘が人類とマザーアース(母なる大地)に大きな破局をもたらすとしてもである。結局のところ、彼らはそれが悲惨な結果をもたらすことを知っているが、「まだまだ先のことで、今すぐのことではないから、かまうもんか」とでも思っているのだろうか? それに、今何かが起こったとしても、自分たちだけは安全なところにいられるように資産をため込んでいる。金持ちたちは気候変動の最悪の影響から逃れるために、より多くの手段を持っている。

「温室効果ガス排出量」の問題は、時には、本当の問題、つまり大企業の利潤率を維持するために人間と自然の搾取の強化を必要とする資本主義システムの論理を覆い隠す。

おそらく最大の誤りは、気候変動交渉を排出量削減率をめぐる争いに切り縮めてしまったことだろう。私たちはもっと大きな、本当の問題、つまり地球が限界に達しているという問題について議論するべきだったし、化石燃料の埋蔵量、多国籍企業、消費と生産のパターン、このシステムの下での搾取や強欲、利潤への執着の全体的な論理的構造等の問題を議題に上らせるべきだった。

私たちは開発、成長、民族国家という概念を超えて見通し、地球システムの問題や、自然の生命サイクルを尊重する経済モデルの必要性について議論する必要がある。2010年にボリビアで開催された「気候変動とマザーアースの権利に関する世界民衆会議」は、その方向に向けた適切な一歩だったが、それは最初の一歩にすぎない。

戦略の再考

新たな分析は新たな戦略を要求する。今は気候変動交渉の外で具体的な勝利を獲得することを通じて、この交渉に異議を唱える時だ。先進国と発展途上国の両方において、さまざまな社会運動がシェールガスの開発、天然ガス・パイプラインの建設、タールサンドの採掘に対して、また、他のいくつかの採掘産業や破壊的な産業に対して闘っている。私たちは闘争を地球規模で活気づけるような勝利を必要としている。

私たちは、環境の危機を食糧危機や金融危機と結びつけることによって、気候変動との闘いの新しいアプローチを進める必要がある。私たちは、気候変動の問題に関わっていない新しい社会的アクターを結集する必要がある。多くの人々にとって、緊縮財政政策との闘争と気候変動との闘争が同じ敵と対決しているということは自明ではない。最近(2012年11月に)フィリピン・マニラで開催された「移住問題に関する世界社会フォーラムにおいて、「アジアの社会運動総会」は次のような声明を発表した(この声明には70以上の運動団体および組織が署名した)。「私たちはこれらの闘争を強化し、食糧、水、健康、エネルギー、雇用、人権の要求と、気候変動、金融投機、土地強奪、新自由主義的な自由貿易協定と投資協定、多国籍企業の免責、移民や難民の犯罪扱い、家父長制と女性への暴力、緊縮財政と社会保障の削減に対する闘争を結合する必要がある」。[この声明の日本語訳はATTAC Japan(首都圏)のブログに掲載
されています http://attaction.seesaa.net/article/305669690.html]

私たちは、国家、地域またはグローバルレベルでの「気候に関する住民投票」の推進のような新たなキャンペーンの実施について議論する必要がある。私たちは、人々が自分たちやマザーアースの将来について決定するための民主主義的権利を取り戻すために、あらゆるスペースを活用する必要がある。

私たちはアグロ・エコロジー(エコロジー的農業)、食料主権、分散型のエネルギー生産と消費等のオルタナティブを強化していく必要がある。私たちは、より多くのエネルギーが必要であり、そのための唯一の方法が巨大プロジェクトであるという嘘を解体する必要がある。私たちは、それらのプロジェクトの背後にはよく知られた企業の利益が絡んでいること、また、そうではない地域的な、あるいは小規模なオルタナティブが可能であることを数字や具体的な経験を通じて示す必要がある。

社会運動の活動家と気候変動の問題に関わっている活動家が集まり、私たちの分析、オルタナティブ、戦略を再考、再創造するための格好の機会が、2013年3月にチュニジアで開催される世界社会フォーラム(WSF)の中の「気候スペース」である。今こそ、気候変動に立ち向かうための私たちの分析、オルタナティブ、戦略を再考する時である。
 
 
posted by attaction at 13:43 | エコロジー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする