2003年06月24日

Q2:金融取引税を支持する政治的論拠はどのようなものですか?

経済を不安定化させる投機の牙を抜くことが必要です。

カジノ経済(そこでは財やサービスよりもカネが主要な交換対象になる[*1])がこの20年間に爆発的に発展しました。生産的経済 および雇用創出と、純然たる投機でしかなく「バブル」の形成に至る大部分の金融取引との間に齟齬が生ずるようになりました。1990年には世界の名目GDPの15倍にすぎなかった金融取引総額は、たとえば2008年には74倍に達しました。過去10年間に、デリバティブ取引は文字通り爆発的に発展しました[1]。金融取引税を導入すれば、社会的に望ましくない取引を制限し、 それがもたらす害悪を自己の内部で処理させて、市場の機能不全を(いわゆる「ピグー式の」課税で)[2]是正させることができるようになります。

社会において金融のもつ権力を縮小させる必要があります。

 資本の運動の自由化は、並外れた社会的権力を資本保有者に与えることになりました。資本保有者たちはたった一回のクリック、たった一本の電話だけで、取引所から取引所へと巨額のユーロやドルを移し、それによって世界中の企業・賃金労働者・国家を競わせることができるのです。金融投資家が過去20年近くも毎年10%を上回る収益率の確保に成功してきたのは、産業部門と国家に鉄の規律を強制してきたからです。これらの金融取引のコストを引き上げれば、生産的経済にかけられた圧力を多少は緩和できるでしょう。とりわけ取引量が大幅に減ることで、金融機関の収益と社会的権力は深刻な打撃を受けることになるでしょう。そうなれば、目下は盤石の国家エリートと金融エリートの同盟を揺さぶり、新自由主義にかわる政策を実施することが、より容易になるでしょう。

新しい財源が緊急に必要なのです。

 国家は新たな財源調達手段を緊急に必要としています。財政赤字を削減し、景気浮揚と社会保障のための財源を調達する必要があります。経済協力開発機構(OECD)の労働組合諮問委員会(TUAC)によれば[3]、金融危機は富裕国の財政赤字を毎年およそ3000億〜4000億ドルずつ悪化させています。さらにミレニアム開発計画目標の資金源として1680億ドル、地球温暖化対策のために1560億ドル(適応策に860億ドル、緩和策に700億ドル)が少なくとも必要となるでしょう。

各国・大陸・世界レベルで富の再分配に着手し、その負担を金融部門に担わせる必要があります。

 金融が引き起こした危機のせいで増大した失業や雇用不安というツケを市民が支払うなんて、そもそも受け入れ難いことです。財政再建の負担が市民に回されることはなおさらです。今後の数年間に、国家は赤字削減手段を見つけなければならないでしょうが、金融部門が負担を免れる一方で個人所得税や間接税(付加価値税)、社会保険料(失業手当などの財源)が引き上げられるなどということを市民は受け入れないでしょう。

[1] Schulmeister, WIFO, 2009.
[2] ピグーは、20世紀初頭のイギリスの経済学者。税制に関して「汚染者がその除去費用を負担する」という考えを提唱した。財源調達だけでなく、経済主体の行動の変革も目的としたもの[*2]。以下を参照。Zsolt Darvas, Jakob von Weizacker, Breugel, << Financial trasaction tax : Small is beautiful >> ; Study for the European Parliament's Committee on Economic and Financial Affairs ; January 2010 ;
http://www.bruegel.org/ne/publications/show/publication/financial-tramsaction-tax-small-is-beautiful.html
[3] The parameters of a financial transaction tax and the OECD global public good resource gap,2010-2020. TUAC Secretariat, February 2010 ;
http://www.tuac.org/en/public/e-docs/00/00/06/7C/document_doc.phtml

[*] 編者補注
1.イギリスの国際政治経済学者、スーザン・ストレンジは、金融が実物経済を上回って人間社会に影響を与える経済を、「カジノ資本主義」と命名した。「カジノ経済」は、ストレンジのこの言葉と同じ意味と考えてよい。(スーザン・ストレンジ著『カジノ資本主義』岩波現代文庫 2007年刊)
2.企業は何らかの商品(財・サービス)を生産して利益を得る経済主体である。生産にあたって、企業はコストを少しでも削減するため、しばしば有害な廃棄物を海や空に捨てながら生産を行う。海や空に捨てれば、処理のコストはゼロである。しかし、そうなると海にはヘドロが堆積し、大気は汚染されていく。そして、多くの場合、これら有害物を除去するのは政府のような公的機関が税金を投入して行う。つまり、有害物質の発生によって利益を得るのは企業であり、税金という形でコストを払うのは市民である。アメリカの経済学者ロナルド・コースは、このような企業と市民との関係を「経済の外部性」という概念で説明している。このような不公平を改めるため、イギリスの経済学者アーサー・セシル・ピグーは環境を汚染した企業からコストを徴収するべきだと提唱した。汚染を発生させた主体にそれを除去するためのコストとして徴収する税を、ピグー税という。このピグー税は、環境税とも呼ばれている。金融取引税は、投機的金融取引により荒廃した経済を立て直すためのコストを、ヘッジファンド等の経済を荒廃させた主体から金融市場を通して徴収し、それを環境対策や途上国の貧困対策等に使おうというものである。ただし、現在では環境の負荷を除去するという目標水準を達成するため、税率を柔軟に上下できる方法を採用するボーモル=オーツ税として考察されることが多い。なお、金融取引税は、普段は非常に低い税率をかけ、投機的取引には禁止的な税率をかけることで金融の暴走を止めるという、トービン・シュパーン型の税制が支持されている。詳しくは本論のQ7、Q8、Q9を参照されたい。



前へもどる
最初へもどる
次へすすむ


arton334.jpg
posted by attaction at 14:50 | 通貨取引税(トービン税)、金融 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする