2010年08月21日

ハンガリーとIMF

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ハンガリー通貨のフォリントが暴落寸前にある中で、ハンガリーはIMFに支援要請をし、緊縮財政策を受け入れてきましたが、あまりの条件付けにハンガリーはIMFの条件を飲むことはできず、とうとう7月17日に交渉は決裂しました。

ハンガリーは現在、
・銀行への新たな課税(これによって外銀は悲鳴をあげているそうです)、
・中央銀行(ハンガリー国立銀行)総裁の賃金75%カット(異常なほどの高金利設定をしていた責任として)
・金利の引き下げ
など、独自の政策を始めています。

8月9日英ガーディアン紙にこれに関する分析記事が掲載されましたので、翻訳・掲載します。
筆者のマーク・ウェイスブロットはワシントンのThe Center for Economic and Policy Research (CEPR:経済及び政治研究所)の共同代表で、オリバー・ストーン監督の「サウス・オブ・ザ・ボーダー」(2009年)の脚本も共同執筆しています。

(表題の”To Viktor go the spoils”は、オールバン首相の名前Viktorと、英語の慣用句”To the victor goes the spoils.”(戦利品は勝者のもの:勝った側がなんでも欲しいままにする)の掛け合わせです。)

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戦果はヴィクトルの手に:欧州の先駆者ハンガリー
オールバン首相の中道右派政党が緊縮政策に代わる新たな道を切り開く

英ガーディアン・オンライン(2010年8月9日)
マーク・ウェイスブロット

(原文:
To Viktor go the spoils: how Hungary blazes a trail in Europe
Orban's centre-right party is pioneering an alternative to austerity
By Mark Weisbrot)
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/cifamerica/2010/aug/09/viktor-orban-hungary-imf
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ハンガリー政府はここ数ヶ月、多くの大立者相手に立ち回りを演じ、そして今のところ−「重要人物」たちの憤激を他所に−優勢にあるようだ。

「IMFは一線を画すべきだ」。
ハンガリーが7月、IMFのプランを叩き返した翌日、フィナンシャル・タイムスの社説は激昂してこう書いている。
http://www.ft.com/cms/s/0/65b9bf9e-9363-11df-bb9a-00144feab49a.html

「こんなにも多くの国が危うい状況にある中で、甘い顔ばかり見せるべきではない。時にはイエローカード、レッドカードを示すことも、同様の無軌道に走りかねない他の政府へのいいシグナルになるだろう。」

欧州式“順循環”景気対策−これは不況下や経済成長がほとんどない時期には経済を押し下げる働きをする−の擁護者にとってこれは大きな脅威である。ハンガリーの反逆は、ことによると現在IMFや欧州当局に絞り上げられてる他の国々に伝播しかけない。

7月始め、ハンガリー政府は手始めとして銀行や他の金融機関への新税導入を決定した。これにより今年から来年にかけて8億5500万ドル余の税収が見込まれる。2007年に弾けるまでハンガリーのバブルから巨額の富を吸い取っていた外銀は悲鳴を上げてロビー活動に走った。しかし ― 自陣営にIMF がいるにも関わらず ― 彼らの目論見は失敗に終わった。

次いで政府は、さらに予算を削減しろというIMFの要求を拒否した。ハンガリーはすでに4年近くも緊縮財政を実施し、これにより財政赤字はGDPの9%から3.8%に減少した。更に重要なのは国の経常収支赤字で、− 2008年にはGDPの7%以上という、世界でも飛びぬけた数値を示していたのが − 今年はなんと1%以下なのだ。一方、失業率は2007年の7%から今日では12%近くに上っており、経済は未だほとんど成長していない。ハンガリー人は当然のことながら、この長いトンネルが終わって日の目を見るのは何時のことかと不審に思い始めている。IMFの融資継続の条件をめぐる交渉は7月17日に破綻した。

4月、ハンガリー議会の議席の3分の2以上を与党が占めるという圧倒的勝利で首相となったヴィクトル・オールバンは、高金利を保った為に景気回復が遅れたとハンガリー国立銀行を非難した。政府はアンドラーシュ・シモル国立銀行総裁の給料を75%削減した。
(世界史上最大の資産バブルを二回も野放しにし、大恐慌以来最悪の不況という結果を確実なものにしてくれたというだけでも、ベン・バーナンキやアラン・グリーンスパンは同様の処遇に値すると思うのだが・・)
国立銀行は金利を5.25%に保持する政策をとっているが、これは欧州において最も高金利の部類に入る(対する我々の連邦準備制度政策金利は2008年末以降0〜0.25%である)。

これらオールバン政権の決定はすべて、彼らなりの経済的理論的に基づいている。
銀行への課税はGDPの約0.5%に相当し、これは赤字削減に取り組む政府にとっては大きな意味を持つ。片や銀行は― 米国その他あらゆる場所同様、彼らの無鉄砲な融資慣行がハンガリーの直面する混乱の大いなる原因であった ― 経済がいまだ停滞しているにも関わらずすでに高収益をあげているのだ。これは税を取り立てるにはよい場所だ。循環経済政策を推進せよとのIMFの要求(予算削減と増税)は、経済回復を妨げる。だれかがどこかだ「もう沢山だ」と言うべきなのだ。

国立銀行の高金利政策についても同様である。2008年、経済が下り坂の時期に8〜11.5%という高すぎる金利を保ち続けた。昨年ハンガリーのGDPは6.3%下降したが、一方、政策金利は未だ6.25%から9.5%であった。この大破局は、今年度ほとんど経済成長がなかったことも含めて、政策の失敗によるものであることが見て取れる。

しかし、政府のこれらの行動は、「権威筋」からの厳しい非難を受けている。通説では中央銀行は政府から「独立」であるべきとされる―しかし、しばしばそれは、彼らが一般の人々の利益より銀行のそれを追求することを意味する。

ムーディーズ、スタンダード・アンド・プアーズのような信用格付機関 − 数年前、不動産担保付証券という毒まんじゅうにトリプルAランクを付けて我々に喰わせた輩(やから) − は、IMFとの合意に失敗した廉(かど)でハンガリーの評価格下げを検討している。

ニューヨーク・タイムズの先週の記事にあるように、ハンガリーの闘いは「来年あるいはそれ以降、さらに拡大すると思われる困難の予兆だ。ほとんどの欧州の政治家たちが(中略)財政規律を導入しようとしているのに対し、市民の側はますます、おいそれとはそれに従わなくなっているからだ。」

こちらとしては市民の側がもっと“おいそれとは従わなく”なることを願うのみだ。 例えば、スペインやギリシャの政府は、実は大きな交渉力があり、もっと多様な代案を準備できるのにその手札を使おうとはしていない。

ハンガリーの中道右派政権が先鞭を切るとは皮肉なものだ。しかし、もしスペインやギリシャの社会党政権がヨーロッパ当局とIMFに抗して立ち上がるなら、彼らは民衆の支持を再度結集させることができるだろう。そうなれば私たちは、より早い経済回復を可能にする新しい場を欧州の中に見ることになるだろう。そしてそれは大多数の人々を直撃している現在の生活破壊も終わらせることになるだろう。
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(翻訳以上)

参考サイト:
日本語記事
ウォールストリートジャーナル日本版
「ハンガリー、国債発行好調でIMF融資不要に」
http://jp.wsj.com/World/Europe/node_89200

産経ビジネスオンライン
「ハンガリーIMFとの交渉中断“反乱”は欧州信用不安の新たな火種に 」
http://www.sankeibiz.jp/macro/news/100805/mcb1008051931031-n1.htm

IMFサイト:最新の記者会見
http://www.imf.org/external/np/tr/2010/tr072210a.htm
IMFの態度は一貫して「私たちの政策は成果を挙げていました。ハンガリーとの交渉回路は切っていない」というものです。

関連記事
CADTM:Hungary defies the IMF
http://www.cadtm.org/Hungary-defies-the-IMF
「欧州でも債務監査をし、違法に作られた債務は支払い拒否しよう」と書かれています。

CEPR:1999年設立、経済政策を革新的立場から分析し広く一般に伝えていくことを使命とするシンクタンク。
http://www.cepr.net/
http://en.wikipedia.org/wiki/Center_for_Economic_and_Policy_Research

Mark Weisbrot
http://en.wikipedia.org/wiki/Mark_Weisbrot

オリバー・ストーン監督「サウス・オブ・ザ・ボーダー」(2009年)
http://southoftheborderdoc.com/synopsis/
変革が進む南米五カ国の社会・政治運動に取材すると共に七カ国の首長にインタビュー。そして米国主要メディアがいかにその姿をゆがめて伝えているかを扱った映画だそう。
posted by attaction at 22:55 | 通貨取引税(トービン税)、金融 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする