コペンハーゲンから様々な報道が伝えられていますので、COP15について考えてみました。(ATTAC(首都圏)運営委員 秋本 陽子)
COP15の合意が叫ばれていますが、私は、合意を優先する考えに違和感を持っています。提案されている内容について、考えられるあらゆる面からの十分な検証が必要です。現状のままでは、COP15が「環境の新自由主義」もしくは「環境植民地主義」によって北が南を支配する構造を作ってしまうのでないか、と危惧しています。Climate Justice Network!、ならびにそれに参加する途上国の社会運動団体も、北が南を支配する新たな構造が創設される可能性があることに警戒を呼びかけています。
http://www.attac.org/copenhagen
なぜこのように考えるのかについて、また、なぜオルタ・グローバリゼーション運動が、今日COPの議論を批判しているのかについて、以下、ざっと書いてみました。私自身は、COP13(2007年12月、インドネシア・バリ島)およびCOP15作業部会(2009年10月、タイ・バンコク)と同時並行的に行われたパラレル・アクション(クライメット・ジャスティス・ネットワークが主催)に参加し、気候変動対策の中で何が起きているかを当事者たちから聞いてきました。加えて、2008年7月、G8洞爺湖サミット時に札幌で開催した「G8サミットを問う会」主催の「国際民衆連帯デイズ」で開催した「気候変動」セミナーでの議論を振り返りながら、以下、まとめてみました。
1. 気候変動に公正の視点を!
(1) 不公正な責任負担
地球温暖化に最も貢献し、結果的に気候変動に拍車をかけてきたのが、先進国および多国籍企業であり、まず彼らが気候変動に対して責任を負うべきです。気候変動に関する国連枠組み条約前文で明記されているように、「差異のある責任」でなければなりません。
(2) 持続可能性(サステナビリティ)の観点の欠落
温室効果ガスの排出削減を追求する中で、真に持続可能な社会を目指すという観点が欠落しています。気候変動対策においては、国家、地域、民族、ジェンダーなどにかかわらず、世界のすべての者が搾取されることなく、貧困に陥ることなく共にディーセントな生活を送れる社会を目指すものでなければなりません。
(3) 金儲けのシステム
結果として、先進国および大企業が儲かる(得する)システムになっています。これまで温室効果ガスを大量に排出してきた先進国および大企業を、気候変動対策の枠組みに参加させるために、彼らが結果として儲かる仕組みが打ちだされています。排出権取引の大部分はそれに該当します。これは、一つには、欧米の大企業が常にCOPにロビイングを行い、また自ら環境NGOを設立して、COP会合のたびに大量動員して圧力をかけているせいでもあります。
(4) 気候変動の影響を最も受けている当事者の排除
気候変動対策の討論においては、最も影響を受けている人々(中小農民、先住民、漁民、女性、労働者など)の代表を会議に参加させて、そうした人々の提案を対策に盛り込むことが必要です。しかしながら、むしろ温室効果ガスを大量に排出してきた大企業の提案ばかりを聞いているのが現状です。
(5) 途上国支援ファンドが借金地獄への道
COP15ではこれまでになく途上国支援が叫ばれ、議論されています。すでに世界銀行はいくつかの環境ファンドを創設していますが、それらはすべて貸付(ローン)によるものです。途上国における気候変動対策の実施は、先進国または世界銀行などの国際金融機関からの資金提供(ローン)が前提になっています。
2. 市場化した気候変動対策−取引を容認した京都議定書
京都議定書で新たに導入されたのが、温室効果ガスの削減を達成しやすいように柔軟性措置として、排出枠(排出量)を取引するという措置です。これには、3つの取引方法((1)排出枠取引(17条)、(2)共同実施(6条)、(3)クリーン開発メカニズム(CDM)(12条))があります。
もともと1992年に採択された気候変動に関する国連枠組み条約には、「取引」という概念はありませんでしたが、京都で開催されたCOP3で、米国が「取引」による削減を主張したことで、上記3つの取引が了承され、京都議定書に盛り込まれました。
この中で、特に問題が指摘されているのが、クリーン開発メカニズム(CDM)です。これは、先進国が、途上国の温室効果ガス削減事業に資金または技術を提供して、温室効果ガスの排出を抑制できたとき、先進国はその抑制分を自国の削減量とすることができるというものです。これによって、先進国は排出量を増やすことができ、世界の温室効果ガスの総量は削減されるどころが、逆に増加します。
さらに、その中で最も批判されているのが、CDMのもとで植林を行い、途上国の森林破壊と劣化を食い止めるというREDD(Reducing Emissions from Deforestation and Forest Degradation:途上国における森林減少・劣化に由来する排出の削減)プロジェクトです。これは、2007年のCOP13で本格的な討論が開始し、正式に「バリ・ロードマップ」の中に盛り込まれた手法です。ここには、いくつかの論点がありますが、REDDの性格を特徴づけるものとして、REDDの資金調達については、カーボン市場(排出権取引市場)を活用して何十億ドルもの資金を確保すべきだという議論も展開されています。COP15では、こうした作業部会での議論に基づいて討論が行われ、REDDの枠組みに関する交渉が予定されています。
一方、REDDについては、すでに様々な基金が用意されています。世界銀行の「森林投資基金(炭素パートナーシップ・ファシリティ)」や、UNDP、UNEPおよびFAOの国連機関が共同で設立したUN-REDD、さらには「ボランタリー・カーボン・マーケット」による資金調達、あるいは、ノルウェーのように途上国に環境対応技術を移転して、自国の排出量削減に充当し、差し引きゼロとする「カーボン・オフセット」イニシアティブなどがあります。
3. CJNが主張するポイント
(1) 先進国が負っている環境債務
先進国は途上国に対して環境債務を負っています。これは、ecological debt、climate debt、environmental debtなどの名称でいわれる債務です。これについては、昨年G8サミット時の対抗アクションで開催した途上国債務のワークショップの報告から転載します。
環境債務の定義(エクアドルAccion Ecologicaによる定義):
環境債務とは、北の工業国が途上国に対し、(植民地時代からの)資源の略奪、環境破壊、温暖化ガスなどの廃棄物放出と引き換えに負っている債務である。生物圏(biosphere)を乱し、生態学的限界を超え、そして天然資源を持続不可能なまで採取する側は、環境債務の返済を開始すべきである。環境債務は次のようにして蓄積されてきた。様々な天然資源の採取、環境コストを外部化した環境的に不公正な交易条件の押し付け、種子や植物に関する伝統的な知識をアグリ・ビジネスやバイオテクノロジーに流用してきたこと、温暖化ガスの排出による大気圏の汚染、途上国における化学兵器・核兵器の製造・試用、そして化学物質や有害ごみの廃棄などである。現在の新自由主義に基づいたグローバル市場経済システムによって、この環境債務は生みだされ続けている。たとえば、国際金融機関によって課せられた構造調整プログラム、不公平な交易条件、債務返済のための輸出増を強いてきたこと、そしてWTOルールにおける貿易関連知的所有権も環境債務の増加に加担している。
誰が、誰に、何を負っているのか?豊かな国によって引き起こされた環境破壊は、貧しい人びとを苦しめている。そしてそのコストは、13〜15兆ドルともいわれており、途上国の対外債務総額1.8兆ドルを優に上回る。少なくとも、豊かな国は貧しい人びとの犠牲によって発展したのであり、従って貧しい人びとに対する負債があるはずだ。
(2) 疑わしい途上国支援資金メカニズム
途上国の気候変動対策(mitigation(温室効果ガス削減)とadaptation(気候変動に対する対応))には技術と資金が必要です。しかし、それは、地球温暖化の責任を負うべき先進国が無償で行うべきです。援助マネーがどこから、どのように流れ、どの目的で使用されるのか、温室効果ガス削減にどの程度、効果があるのかなど、透明性および公正さを担保した上で、援助を受ける側の当事者を交えた議論が必要です。例えば、不公正債務の帳消しを求めるジュビリー・サウスなどは、世界銀行を介して提供される適応ファンド(Adaptation fund)について、新たな形の債務の強制であり、途上国を借金漬けにするものだ、と主張し、将来、不公正債務になる可能性を指摘しています。
(3) CDM-REDDのもとで進行する環境(森林)破壊および先住民の生活破壊
CDMのもとで進められているのが植林事業(REDD)です。現在、このREDDプロジェクトによって世界各地で環境破壊が進んでいます。森林で暮らしていた先住民などの住民たちは生活を破壊され、追い出されています。先住民グループは、REDDは「Reaping profits from Evictions, land grabs Deforestation and Destruction of biodiversity(追い出し、土地収奪、森林破壊、および生物多様性破壊による利益の刈り取り」であり、森林の炭素植民地化(Co2lonization)と呼んでいます。
10月バンコクで開催されたCOP15のパラレル・アクションでは、ビア・カンペシーナのインドネシアとタイの農民の話を聞くことができました。
チェンマイの農民: タイ政府は北部タイで環境保全スキームを実施している。これは、国立公園や農地を利用して、環境保全地域(conservation area)として囲い込み、温室効果ガスを吸収しやすい木を植えるものだ。この地域を作るために、政府は農民から土地を奪い、既存の森林を焼き払って、成長の早い樹木を植林している。この森林の焼き払いによってあちこちで白煙が上がっていて、気温が上昇している。そして、土地を奪われた農民の多くは都市に移住している。あるいは、そこに残った農民は、環境保全地域で働いたり、または祖先から学んできた伝統的な暮らし方を強制的に変えさせられ、他の単一の作付が強要されている。森林破壊および森林の質の悪化は甚だしい。特に、農村の女性たちは森で生活し、生産活動をしてきたが、彼女たちの生き方が、政府の植林による環境保全計画によって破壊されている。これは私たち村人たちの生活破壊だけでなく、生態系に対する破壊だ。
南スマトラの農民: インドネシア政府は農業改革という名のもとで、大企業と提携してREDDパイロット・プロジェクトを積極的に推進している。何百万ドルもの金が北の国から入るからだ。インドネシアはREDDを世界で初めて法制化した国である。軍と警察を動員して、農民や先住民を森林から追い出して巨大プロジェクトが進んでいる。スマトラでは洪水や火災によって、またバイオ燃料生産のための大企業の土地買収によって森林や農地が喪失している。例えば、耕作地が買収されると、灌漑用の水路が破壊される。もう二度と米を作れないようにするためだ。土地を取り上げられた農民たちは、バイオ燃料栽培プランテーションの労働者になっている。南スマトラは天然の森林資源が豊かであったが、土地の収奪が甚だしい。政府は、先住民コミュニティが持っていた土地利用の権利を剥奪できる法律を作って、土地を奪っている。この状況はアチェでも同じだ。アチェでは現在700ヘクタールのREDDパイロット・プロジェクトが進んでいる。実体のないペーパーカンパニーを作って植林が進められている。この事業には大手NGOのWWFが関わっている。温室効果ガスの吸収のためというが、REDDは政府、軍、大企業が一体となった農民または先住民追い出しのプロジェクトであり、温暖化抑止には全く役に立っていない。新たな人工林を植えるために、森林を伐採し、または焼き払って、土地および森の性質を変えてしまうことが、どうして許されてしまうのか。森とともに、自然とともに暮らしてきた先住民の生活を破壊することだ。